大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)2261号 判決

よつて本訴土地につき控訴人が罹災都市借地借家臨時処理法第九条第二条第一項の規定により賃借権を取得したとの抗弁事実について判断する。成立に争のない乙第一号証、同第三号証の一、原審における控訴人渡辺くら本人尋問の結果により真正に成立したものと認める乙第三号証の二、原審証人田中とく、当審証人岡本静子の各証言並びに原審及び当審における控訴人渡辺くら本人尋問の結果を総合すれば、戦前本訴土地の西に隣接する田中滝次郎所有地を訴外都築惣作が賃借して地上に二戸建家屋一棟を所有し、そのうち東側の一戸を控訴人の夫渡辺恒次郎に賃貸し、渡辺恒次郎は同所において理髪業を営んでいたこと、右建物は、戦時中防空上の必要により除却され、その跡地は防空用地として東京都に借り上げられたが昭和二十一年春東京都から所有者田中滝次郎に返還されたこと、右事実を知つた控訴人は、当時応召して生死不明であつた夫が帰還した場合の手がかりとして自ら同所で理髪業を再開するのが便であるというようなことから同年中田中滝次郎に対し夫恒次郎の名で土地借用方を申し出でたところ、田中もこれを諒とし双方実地に臨んでみたところ、当時旧建物の除却跡地は訴外茂木某が不法にこれを占拠してマーケットを開設していたため、旧建物の渡辺恒次郎賃借部分の敷地を実地に就いて確認することができなかつたので、その東に隣接する本訴土地を田中滝次郎より控訴人に対し、田中滝次郎において必要があるときは何時でも明渡す約定の下に、無償で貸与したことが認められる。右事実によれば、控訴人が昭和二十一年中田中滝次郎に対し土地借用を申し出でたことは、罹災都市借地借家臨時処理法第九条第二条第一項の規定による賃借の申出と解することができるけれども、本訴土地は右疎開建物の除却当時の敷地と位置を異にすること前示のとおりであるから、本訴土地について同法条所定の賃借申出の効力を認めることはできない。

控訴人は本訴土地のうち西側の一部はもと疎開建物の東側に設けられた通路の位置に相当し、同建物の敷地の一部を成すものであるから、本訴土地と疎開建物の敷地とは位置を異にするものとはいえないと抗争し、当審におる控訴人渡辺くら本人尋問における供述中には、本訴土地のうち西側の部分幅約三尺について右主張に副う点があるけれども、かようなせまい部分が疎開建物中控訴人の夫恒次郎の賃借部分に属する敷地を成していたことを確認すべき資料がないのみならず、両地がかような僅少の部分を共通にするということだけでは、本訴土地を以て疎開建物の敷地であるということはできないから、控訴人の右主張は採用できない。

控訴人は、本訴土地は疎開建物と所有者を同じくし、且つ隣接していて、しかも本訴土地に対する控訴人の賃借申出を土地所有者において承諾したのであるから、本訴土地についても前記法条の適用があると主張するけれども、罹災都市借地借家臨時処理法の前記法条は、疎開建物の賃借人を保護するためその建物の敷地に限つて同法所定の優先賃借権を認め、第三者の利益を或る程度まで犠牲にして強い対外的効力を認めたものであるから、その敷地と異なる他の土地については、たとえ隣接地であつても右法条を準用すべきでなく、このことは疎開建物の敷地の賃借申出に代わる他の土地の賃借申出を土地所有者が承諾した場合においても同様であつて、これによりその土地につき賃借申出人と土地所有者との間に通常の賃貸借契約が成立することはあつても、そのためその賃借権につき前記法律に定める効果を生ずるものではない。

(斎藤 坂本 小沢)

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